Complete Poems of Akiko Yosano

美濃部民子様
 わたくしは今年の秋の初に、少しの暇を得ましたので、明治卅三年から最近までに作りました自分の詩の草稿を整理し、其中から四百廿壹篇を撰んで此の一冊にまとめました。かうしてまとめて置けば、他日わたくしの子どもたちが何かの底から見附け出し、母の生活の記錄の斷片として讀んでくれるかも知れないくらゐに考へてゐましたのですが、幸なことに、實業之日本社の御厚意に由り、このやうに印刷して下さることになりました。
 ついては、奥様、この一冊を奥様に捧げさせて頂くことを、何とぞお許しくださいまし。
 奥様は久しい以前から御自身の園にお手づからお作りになつてゐる薔薇の花を、毎年春から冬へかけて、お手づからお採りになつては屢わたくしに贈つて下さいます。お女中に持たせて來て頂くばかりで無く、郊外からのお歸りに、その花のみづみづしい間にと思召して、御自身でわざわざお立寄り下さることさへ度度であるのに、わたくしは何時も何時も感激して居ます。わたくしは奥様のお優しいお心の花であり匂ひであるその薔薇の花に、この十年の間、どれだけ勵まされ、どれだけ和らげられてゐるか知れません。何時も何時もかたじけないことだと喜んで居ます。
 この一冊は、決して奥様のお優しいお心に酬い得るもので無く、奥様から頂くいろいろの秀れた美くしい薔薇の花に比べ得るものでも無いのですが、唯だわたくしの一生に、折にふれて心から歌ひたくて、眞面目にわたくしの感動を打出したものであること、全く純個人的な、普遍性の乏しい、勝手氣儘な詩ですけれども、わたくしと云ふ素人の手作りである點だけが奥様の薔薇と似てゐることに由つて、この光も香もない一冊をお受け下さいまし。
 永い年月に草稿が失はれたので是れに収め得なかつたもの、また意識して省いたものが併せて二百篇もあらうと思ひます。今日までの作を總べて整理して一冊にしたと云ふ意味で「全集」の名を附けました。制作の年代が旣に自分にも分からなくなつてゐるものが多いので、ほぼ似寄つた心情のものを類聚して篇を分りました。統一の無いのはわたくしの心の姿として御覽を願ひます。
 山下新太郎先生が装幀のお筆を執つて下さいましたことは、奥様も、他の友人達も、一般の讀者達も、共に喜んで下さいますことと思ひます。
與謝野晶子
如何いかなればくさよ、
かぜけば一方ひとかたる。
ひとしからず、
おのこゝろきにる。
なにき、なにしき、
らず、ひとき。
わがいへ天井てんじやうねずみめり、
きしきしとおとするは
のみとりてざうきざひと
ぬがごとし。
またそのつまをどりては
𢌞まはるひびき
競馬けいばきほひあり。
わがもnうへ
屋根裏やねうらすなぼこり
はらはらとるも
彼等かれらいかでらん。
されどわれおもふ、
われねずみともめるなり、
彼等かれらものあれ、
よきあたゝかきあれ、
天井てんじやうあなをもけて、
折折をりをりわれのぞけよ。
わがこゝろほどえて
たかぶり、しのとき
何時いつ何時いつきみおもふ。
わがこゝろえなんばかり
はかなげに滅入めいれば、また
何時いつ何時いつきみおもふ。
つつましく、へりくだり、
しかもいのちだして
ひと眞理しんりあいつよきみ
ああ賀川豐彥かがわとよひこきみ
ときとしてひとりまもる。
ときとしてみなしたしむ。
おほかたはけはしきかた
きていのちきずつく。
こしかたもれ、
すゑれ。
ゆるせ、かる氣儘きまゝを。
あきけて、露霜つゆしも
たるもののあはれさよ。
いよいよあかたでくき
くろまじるコスモスのはな
さてはまた雜草ざつさうのうられて
まだらつくみどり
一事ひとことりたさに
れをみ、れをみ、
われらずかし、
らす數數かずかずしよ
めぐふる巻巻まきまき
客人まろうどよ、これをたまへ、
あきとこ
はぎはなとも。
ともにうたへば、うたへば、
よろこびにぞあまる。
かしこきもわすれ、
みたるもざいわすれ、
まづしき我等われららうわすれて、
あいなみだなか
和樂わらくする一味いちみひと
うたながきもし、
悠揚いうやうとしてほがらかなるは
てんよ、うみよ。
みじかきはさらし、
ちらとの微笑びせう端的たんてきさけび。
とにかくにたのし、
ともにうたへば、うたへば。
わがこひひとたまふ。
わがこひ如何いかこたへん、
たとふればちさたふなり、
いしずゑ二人ふたりいのち
眞柱まばしらあいてつつ、
そうごとにがく藝術げいじゆつ
あせりてかためぬ。
たふ無極むきよくたふ
さらみ、さらかさねて、
かぜあめあたらん。
なほひくし、いまところ
なほせまし、いまところ
あまおほくはさず、
さむきこと二月にぐわつごとし。
たのめるは、かすかなれども
ひとうちなるひかり
わがみち常日頃つねひごろ
三人みたり四人よたりとつれだちぬ、
またときとして一人ひとり
一人ひとりはなやかに、
三人みたり四人よたりくときは
さらにこころのたのしめり。
我等われらりぬ、おのみち
ひとすぢなれどおのみち
けはしけれどもおのみち
みぬるひとおもふこと
やまひをばきとして
すべてをおもならひなり。
われ年頃としごろこひをして
大方おほかたのちにしぬ。
かかる立場たちばがたし、
ひとざれと、かたよれど。
ここでたれくるまこまつたか、
どろ二尺にしゃくくちいて
てつにひたとき、
三度みたび四度よたびひとすべつたあとえる。
其時そのとき兩脚しやうあし槓杆こうかんとし、
全身ぜんしんちからあつめて
一氣いつき引上ひきあげたこゝろ
てつならばいたであらう。
ああ、みづかはげもの
折折をりをり、これだけのことにも
そのふたつといのちける。
みなそのみづからの
しばられてゐる。
とりあさんでも
日暮ひぐれにはかへされる。
ひとおなじこと、
自由じいうたましひちながら
おなおなまちおな番地ばんち
おな寢臺ねだいしする。
わたしは先生せんせいのおたくる。
先生せんせい視線しせんわたし背中せなかにある、
わたしはれをかんじる、
葉巻はまきかをりがわたしつてる、
わたしはれをかんじる。
玄關げんくわんから御門ごもんまでの
赤土あかつちさか並木道なみきみち
太陽たいやうまつみきふとしまつくつてゐる。
わたしはぱつと日傘ひがさひろげて、
ひだりなほす、
いたゞいた紫陽花あぢさゐおもたい花束はなたば
どこかでせみひとく。
かぜふくなかに
まはりの拍子木ひやうしぎおと
二片ふたひらなれど、
かしかたくして、
としつつ、
ずれ、あぶらじみ、
しんからおもたく、
ふたれてはり、
嚠喨りうりやうたる拍子木ひやうしぎおと
如何いかまはりのこゝろ
みづから
みづからきてたのしからん。
部屋へやごとにけよ、
百燭ひやくしよくひかり
かめごとにけよ、
ひなげしと薔薇ばらと。
なぐさむるためならず、
らしむるためなり。
ここに一人ひとりをんな
むるをわすれ、
感謝かんしやわすれ、
ちさことひとつに
つとかまほしくなりぬ。
三十さんじふえていまめとらぬ
詩人しじん大學だいがく先生せんせいまへ
實在じつざい戀人こひびとあらはれよ、
そのをんなおほけれど、
詩人しじんより
いへむすめはなたしめん、
マリイ・ロオランサンのあふぎ
じやうしま
みさきのはて、
さゝしげり、
ばみてれ、
そのしたあか切厓きりぎし
ちかみぎは瑠璃るり
おきはコバルト、
ここにしばすわれば
はるのかぜわれにあつまる。
トンネルをまたひとでて
うみ景色けしきかはる、
こゝろかはる。
靜浦しづうらくち
わがけいする龍三郎りうざぶらうきみ
幾度いくたび此水このみずたまへり。
りたるいししろく、
ふねあた桃色もゝいろ
いそみちつつまがる、
なほしばしあゆまん。
ヹルサイユきうぎしかど、
われはれにまさはなざりき。
牡丹ぼたんよ、
地中海ちちうかい桔梗色ききやういろ群靑ぐんじやうとをかさね、
はな印度いんど太陽たいやう赤光しやくくわうけたり。
たとひ色相しきさうはすべてむなしとも、
なにいたまん、
牡丹ぼたんつつあるあいだ
豐麗ほうれい炎熱えんねつゆめわれひたれば。
きかな、うつくしきかな、
つがへて、ひじり、
しぼりたるゆみかたち
よ、よ、子等こらよ、
とりならずして、よ、
そらを。
まとおもふことなかれ、
子等こらゆみとのともつく
そのかたちにこそいみじけれ、
よ、そらを。
わがおもひ、このあさ
あきみ、ひとつにあつまる。
あいと、と、藝術げいじゆつと、
玲瓏れいろうとしてすずし。
げてれば
かの靑空あをそられなり、
その木立こだちれなり、
まへなる狗子草ゑのこぐさ
なみだしとどにめて
やがてけるれなり。
たでれてくきなほあかし、
たけさへもあきばみぬ。
その路草みちくさかくれて、
くさつゆひるかわかず。
のこるダリアのはな
ごと花粉くわふんをこぼす。
童部わらはべよ、ふことなかれ、
向日葵ひまはり小鳥ことり

俵万智訳 みだれ髪

つばさかなしきかな、
つねにありぬ、なほありぬ、
大空おほぞらたかこゝろ
れは痩馬やせうま默默もくもく
おもふ。ひとらず、
ひとらず、ひとらず。
よそくにより膽太きもぶと
そつとりたる飛行船ひかうせん
ればあとし。
われはおろかな飛行船ひかうせん
きみこゝろのぞくとて、
あらはされた飛行船ひかうせん
もとなゝもとやなぎ
ふゆえしか、一れつ
廢墟はいきよのこ柱廊ちうらうと。
はるひかりやなぎ
今日けふこそゆれ、うつくしく、
これは翡翠ひすゐ殿とのづくり。
ものをらざる易者えきしはかな、
我手わがてんともとむるは。
そなたにげん、がために
うらなふことはおくれたり。
かののことはらねども、
わがこの諸手もろで、このにて、
うへなきさちも、わざはひも、
るべきかぎ滿たされぬ。
をひなるものなげくやう、
二十はたちゆれど、かず、
をどりらず、ことかず、
これわかふべきや、
いへふべきや。」
これをきたるわか叔母をぼ
ひたれば、手探てさぐりに、
をひり、ひにけり、
「いとし、いまいへよ、
さびしきわれるなかれ。」
はな見上みあげて「かなし」とは
きみなにごとをひたまふ。
うれしきひよ、さればなり、
はるさかりのみじかくて、
はやたそがれの靑病クロシスが、
さとかんじにわななける
をんなしろうへ
どくむごとちかづけば。
おもちやのくまとき
くまあにともおもふらし、
ははさきだちとき
ははよりみちりげなり。
五歳ごさい滿たぬアウギユスト、
みづからたのむそのさが
はははよしやとみながら、
はたなみだぐむ、ひとれず。
紅梅こうばいはなけたつぼ
正月しやうぐわつテエブル
格別かくべつかはつたかざりもい。
せめて、こんなひまにと、
繪具箱ゑのぐばこけて、
わたしは下手へた寫生しやせいをする。
紅梅こうばいはなけたつぼ
だ一つ、あなたに
たづねします。
あなたは、いま
民衆みんしうなかるのか、
民衆みんしうそとるのか、
そのおこたへ次第しだいで、
あなたとわたしとは
永劫えいがふてんとに
わかれてしまひます。
しろきレエスをとほあきひかり
木立こだち芝生しばふとの反射はんしや
そとうち
淺葱あさぎいろあかるし。
ちてまどひらけば
木犀もくせいひややかにながる。
椅子いすうへすこしさし俯向うつむき、
おの靜脈じやうみやく
ほのかにあをきを見詰みつめながら、
しづかなり、今朝けさこゝろ
うたはんとして躊躇ためらへり、
かかること昨日きのふかりき。
しをい/rt>ふもものうし、
これもまた此日このひこゝろ
れはいまひともとのくさ
つつましくれて項垂うなだる。
かなしみをよろこびにして
さわやかにおほいなるあき
なんとしてあをく、
あをしづ今宵こよひこゝろぞ。
ゆびはさふでてつ重味おもみ
きさして見詰みつむるかみ
みづひかりながる。
もとめたまふや、わがうたを、
かかるさびしきわがうたを。
それは昨日きのふひとしづく、
そこのこりし薔薇ばらみづ
それはとせのひとかけら、
すなうもれしあをたま
憎にくむ、
どの玉葱たまねぎひやゝかに
われ見詰みつめてみどりなり。
憎にくむ、
そのさらあまりにしろし、
さむし、いたし。
憎にくむ、
如何いかなれば二方にはうかべよ、
あはせてみゝつるぞ。
がたかなしければ
われひぬ「ふねらん。」
りつれどなほさびしさに
またひぬ「つきたん。」
うみぢたる書物しよもつごと
くることく、
しばらくして、まるつき
なみおどりつればひぬ、
なが竿さをし、
かの珊瑚さんごうをる。」

みだれ髪

角川文庫文豪ストレイドッグスコラボカバー

はちのなかの
活潑くわつぱつ緋目高ひめだかよ、
あかけたくぎ
なぜ、そんなに無駄むだ
みづあなけるのか。
どく先覺者せんかくしやよ、
革命かくめいみづうへい。
ほしが四はう棧敷さじき
きらきらする。
今夜こんやつき支那しな役者やくしや
やさしい西施せいしふんして、
しろきぬ團扇うちはかほかくし、
ほがらかにあきうたふ。
そのみちをずつとくと
うみむとをしへられ、
中途ちうと引返ひきかへしたわたし
卑怯ひけふ利口者りこうものであつたわたし
それ以來いらいわたしまへには
岐路えだみち
迂路まはりみちとばかりがつゞいてゐる。
そらには七ぐわつ太陽たいやう
しろかべしろ河岸通かしどほりには
うみからのぼ帆柱ほばしらかげ
どこかで鋼鐵かうてついたたゝ
船大工ふなだいくつちがひびく。
わたしひじをつくまどには
こころよ南風みなみかぜ
まどしたしほ
ペパミントのさけになる。
われ値踏ねぶみす、かのひとら。
げにはるべきわれならめ、
かの太陽たいやうのあらば。
あまを、つぎ薔薇ばら
それにとれてときしが、
つかれたるうつさんと、
してやうやくにきみき。
そこの椿つばき木隱こがくれて
なにのぞくや、はるかぜ
しのぶとすれど、じろぎに
あか椿つばきはなる。
きみこゝろきはめんと、
じつともだしてあるにも
るか、素直すなほはるかぜ
あかまひがさきに立つ。
あふぎればまひをこそ、
ふでをにぎればうたをこそ、
むねときめきておもふなれ。
わかこゝろはとこしへに
はるとゞむるすべをる。
花屋はなや溫室むろに、すくすくと
きさくなえだもゝく。
のぞくことをばおこたるな、
ひとこゝろ溫室むろなれば。
なみなみげるさかづき
ながめてまみうるむとは、
如何いかうれしきこゝろぞや。
いざしたまへ、なほがん、
のちなるさけうすくとも、
きみりたるさけなれば、
われさけなれば。
鳥羽とばやまよりうみれば、
きよなみだつたふ。
ひとこのゆゑはであれ、
くちふともきじかし。
らんとならばともよ、
せる美神ヹニユスはだごと
すべて微笑ほゝゑ入江いりえをば。
志摩しまくにこそ希臘ギリシヤなれ。
彌生やよひはじめの絲雨いとさめ
をかくさこそあをむなれ。
ゆきをどりし若駒わかごま
ひづめのあとのくぼみをも
まろうづめてあをむなれ。
あれ、琵琶びはのおと、にはかにも
初心うぶなみだ琵琶びはのおと。
たかのきから、明方あけがた
ゆめながれる琵琶びはのおと。
二月にぐわつあめのしほらしや、
かぬはなをばうらめども、
ブリキのとひかくし、
それとはずに琵琶びはく。
夜更よふけたつじ薄墨うすずみ
せたやなぎよ、いとやなぎ。
つき細細ほそぼそ
たか屋根やねからのぞけども、
なんぼやなぎさびしかろ。
ものおもひとりぼち。
したワイ
すみくろぐろとそらき、
おもつたる明星みやうじやう
黄金きん句點くてんひとつ。
うすけずつた白金プラチナ
神經質しんけいしつ粉雪こなゆきよ、
おこりふる電線でんせん
ちくちくさは粉雪こなゆきよ。

ジャーナリスト与謝野晶子

われもやうやくまちち、
ものふためにうたふなり。
ああ、われうたらん、
しき頸輪くびわきて
日毎ひごとらすたまぞとは。
おもひながし、がたし、
うたいづれも斷章フラグマン
たとひ萬年まんねんきばとて
くことらぬわれなれば、
こひはじめのここちせん。
はねまだら刺靑いれずみか、
短氣たんきのやうなてふる。
今日けふ入日いりひかなしさよ。
おもひなしかはらねども、
短氣たんきのやうなてふる。
れもりたし、れもし、
かぬこゝろがたし。
ときみじかし、ひとつ、
おほらんはかたからめ、
なかきはめてすぐれしを
いまんとぞねがふなる。
さればちかきをさしきて、
およばぬかたぶる。
小序。詩を作り終りて常に感ずることは、我國の詩に押韻の體なきために、句の獨立性の確實に對する不安なり。散文の横書きにあらずやと云ふ非難は、放縦なる自由詩の何れにも伴ふが如し。この缺點を救ひて押韻の新體を試みる風の起らんこと、我が年久しき願ひなり。みづから興に觸れて折折に試みたる拙きものより、次に其一部を抄せんとす。押韻の法は唐以前の古詩、または歐洲の詩を參照し、主として内心の自律的發展に本づきながら、多少の推敲を加へたり。コンソナンツを避けざるは佛蘭西近代の詩に同じ。毎句に同韻を押し、または隔句に同語を繰返して韻に押すは漢土の古詩に例多し。(一九二八年春)
すなつたらいて、
れた泥鰌どぢやうりようになる。
ここでしばら絶句ぜつくして、
序文じよぶんつてけて、
めたゆめからはりる。
ときさきだちうたひと
しひたげられてひかひと
ぶた黄金こがねをくれるひと
にがいわらひかくひと
いつも一人ひとりかへひと
あかさくらをそそのかし、
かぜくせなるしのびあし
ひとりでけば戀慕れんぼらし。
あめはもとよりはるいと
まどやなぎはるいと
ゆめならばおほきかれ、
うつくしけれどとほゆめ
けはしけれどもちかゆめ
われはまへをばえらびつれ、
わかき仲間なかまのちゆめ
すべてがえる、武藏野むさしの
すなきまくかぜなか
ひと荷馬車にばしやかぜなか
すべてがえる、きん
太陽たいやうまでがかぜなか
はなきつつをののきぬ、
はなはこころにかぶさりぬ。
ろんじたまふな、き、しき、
なに此世このよわかつべき。
はなわれとはかがやきぬ。
凡骨ぼんこつさんの大事だいじがる
うす細身ほそみてつのみ
かみれてもける
もろいのみゆゑ大事だいじがる。
わたしもおなじもろいのみ
林檎りんごくさる、はなつ、
つめたいゆゑへられぬ。
林檎りんごくさる、ひとぬ、
最後さいごふみひとつ、
わたしはきみかなしまぬ。
いつもわたしのむらごころ、
眞紅しんく薔薇ばらむこころ、
ゆき素足すあしむこころ、
あをおきをばくこころ、
れたいとをつぐこころ。
ゐんがひびかぬ、んでゐる。
それでしきりにいてみる。
みなさんの愚痴ぐち、おのが無智むち
れがのぞいたかきうち
てられぬひとくち
どろ郊外かうぐわいあめる、
れたかまどがいぶる、
踏切番ふみきりばんはたる、
ぼうぼうとしたくさなか
屑屋くづやはぬひとふる
ゆびのさはりのやはらかな
あをけむりにほやかな、
きな細巻ほそまき、DIANAデイア
いのちやみをつけて、
ひか刹那せつなゆめはな
あをそらからとりがくる、
野邊のべのけしきはすではる
ほそえだにもはながある。
とほ高嶺たかねがこころ
すこしのゆきがまだのこる。
つちげるくわ
あふぎふでとる
すみをつかむ
かげにかくれてだひとつ
えぬはてんをゆびさす手。
たか木末こずゑちて
あらはにえる、小鳥ことり
とりり、ふゆて、
かぜきまくすなつぶて。
ひろい野中のなか小鳥ことり
ひと黑黑くろぐろぬりせど
すかしてえるそこきん
とき言葉ことばへだつれど
ゆるはうたきんいん
ままよ、しばらすみん。
いつかおほきくなるままに
らはず、はゝそば
はゝはまだまだひたきに、
きんのお日様ひさまおし驢馬ろば
おとぎばなしひたきに。
ふくろふがなく、よひになく、
やま法師はふしがつれてなく。
わたしはかないでゐれど、
からりとれた今朝けさまど
あまりにあをそらく。
おちしたそらち、
えだ小枝こえだうでる。
ほんにどのふゆち、
しかと大地だいちつてゐる。
をんなごころはいぢけがち。
玉葱たまねぎがせても
あをかへるはむかんかく。
けたこゝろにしても
廿世紀せいきよこく、
太陽たいやうまでがすましく。
はなしはるゆき沙汰さた
しろい孔雀くじやくのそだてかた、
巴里パリイゆめをもたらした
荻野をぎの綾子あやこよひうた
我子わがこがつくる薔薇ばらはた
れも彼方かなたきたがる、
あかるいみち見張みはる、
おそらく其處そこはるがある。
なぜかくほどそのみち
今日けふのわたしにとほざかる。
あを小鳥ことりのひかるはね
わかい小鳥ことりをどむね
とほうみをばわたりかね、」
いてゐるとはれがろ、
まだ薄雪うすゆきえぬみね
つうちでざうをつくつた、
おほきなざうつた、
ざうまつりがさあかえた、
ざうにはかにえだした、
えたらざうがこおわれた。
まぜはすのはぶんりやう、
そのるときのたのしさう。
かつくてえるのことでない、
わたしのつたことでない、
わか無產黨むさんたう
とりふとて安壽姫あんじゆひめ
はゝひたや、ほおやらほ。
わたしもひたや、なほひと
せてかへらぬとほゆめ
どこにゐるやら、眞赤まつか
鳥屋とりや百舌もずはぬこと、
そのひとこゑ百鳥ももどり
おそれておしかはること、
それにくはへて、あのひと
なぜか折折をりをりだまること。
さかしにゑたたはむれに
あかいをふくつゑがある。
ゆびれたかれぬ
いしからにじひあがる。
てゐたへうひかる。
われにつれなき今日けふとき
はなりぬ。
だやさしきは明日あすとき
われにせんと、ひかきぬ
とせをかけてみぬ。
がらすをとほゆきむ、
こころのさんゆきむ、
いてえるはれすすき、
うすい紅梅こうばい、やぶつばき、
あをいかなしいゆきむ。
はやりをへばりがない、
合言葉あひことばをばけいべつせい。
よくもそろうたあかインキ、
ろしあまがひの左書ひだりがき、
づは二三にさにちあたらしい。
うぐひす、そなたもゆきなか
うぐひす、そなたもかなしいか。
はるさむさにほそる、
こころあまれどこほる。
うぐひす、そなたもゆきなか
あまりにあかるい、おくまでも
けはなちたるがらんだう、
つばめの出入でいりによけれども
ないしよにふになんとせう、
闇夜やみよかぜまう。
め、め、れもはる薔薇ばら
今日けふさかりのあか薔薇ばら
今日けふいたら明日あす薔薇ばら
とがるつぼみのあを薔薇ばら
め、め、れもはる薔薇ばら
おのいたさをらぬむし
れたあしをもむであろ。
ひと言葉ことばたぬうし
はずにぬることであろ。
ああむしし、うしでなし。
ゆめにをりをりへびる、
へびかれてちから
ようことしにへびる。
それもくるしいゆめら、
ひとこころひとる。
ろんずるをんないとらず、
みちびくをとこたがやさず、
大學だいがくていとさかし、
言葉ことばおほし、しろし、
れをぢずばなにづ。
ひとあはれをひてのち
なみだながいのち
うらはづかしとりながら、
すべてまづしいすぎから。
ああれとてもひとうち
なみのひかりか、つきか、
寢覺ねざめてらす、まどなか
とほいところでかもき、
こゝろとほる、うみあき
宿やどみさきまつをか
十國峠じつこくたうげいて
たかところたとる。
はなれたれば、ひと
みちゆずらぬうしもある。
うみ眞赤まつかちる。
すべてのひとおもふより、
一人ひとりにはそむくなり。
いとさびしきもこゝろ
いとたのしきもこゝろ
すべてのひとおもふより。
雲雀ひばりがる、麥生むぎふから。
わたしのうたなみだから。
そら雲雀ひばりもさびしかろ。
はてなくあをいあのうつろ、
ともにまれぬうたながら。
かゞみよりづるとき、
今朝けさこゝろぞやはらかき。
かゞみにはちりし、
あとにしづかにうつれかし、
鸚哥インコいろべにつばき。
そこにありしは二日ふつか
和田わだみづあき
呼吸をなほする、ゆめなか
せて此頃このごろおもざしの
あをざめゆくもみづゆゑか。
つとやすらへば素直すなほなり、
ふぢのもとなるひく椅子いす
はなとほしてのひかり
うすむらさき陰影かげす。
ものみな今日けふくみす。
うみ颶嵐あらし遠慮ゑんりよし、
ふねふくくことごとし。
わたしのふねがるとき、
かなたのふねよこき、
つひにわかれて西にしひがし。
ふえにしてむぎくき
よくなるときけるとき
こひもろさもむぎふえ
おもひつめたるこゝろゆゑ
よくときけるとき
地獄ぢごくそこれた、
薔薇ばらうづまるとこた、
きん獅子ししにもれた、
てんちうするいた、
おのうたにもれた。
春風はるかぜあやふで
すべてのものうへで、
ひかりいろつく派手はで
ことにすぐれてめでたきは
牡丹ぼたんはなひとそで
なみだれてえぬ。
今日けふ言葉ことば氣息いきがせぬ、
繪筆ゑふでれどいろぬ、
わたしのまどとりぬ、
そらにはしろつきぬ。
あの白鳥はくてうちかる、
すべてのはなはる、
あをやなぎべる。
きみむかへてはるその
みちすなにもうたがある。
大空おほそらならばゆびささん、
なみならばれてみん、
はなならばまん。
こゝろばかりはかたちし、
いつはりとても如何いかにせん。
ひとわがかどりてく、
やがてる、もりおく
今日けふみなみかぜく。
うまいとはぬか、
しろくするすななか
とりこゝろきみるや、
あめふりてゆるとも
ひな素直すなほそだてばや、
そだてしひなふくかぜ
ちりはなたばや。
牡丹ぼたんのうへに牡丹ぼたんちり、
眞赤まつかえてかさなれば、
いよいよあをし、にはしば
ああることもひかりなり、
かくのごとくに派手はでなれば、
ねやにてけはあさあめ
なかば現實うつゝ、なかばゆめ
やはらかにる、はなる、
わがかみる、くさる、
うす桃色もゝいろいとあめ
あか椿つばきのき
ほこりのつもるうすきね
むしろすはなんたね
すこはなれてかきしに
帆柱ほばしらばかりえるふね
三たびまがつてのぼみち
まがごとに木立こだちより
あを入江いりええるみち
椿つばきうたやまとり
はなみちらすこけみち
明日あすよ、明日あすよ、
そなたはわたしのまへにあつて
まだまぬ未來みらい
不可思議ふかしぎみちである。
どんなにくるしいにも、わたしは
そなたにこがれてはげみ、
どんなにたのしにも、わたしは
そなたをのぞんでをどりあがる。
明日あすよ、明日あすよ、
うゑとにはれてあるくわたしは
たびたびそなたに失望しつばうする。
そなたがやがて平凡へいぼん今日けふかはり、
灰色はひいろをした昨日きのふになつてゆくのを
いつも、いつもわたしはうらんでる。
そなたこそひとにほひゑさだ、
ひかりけむりだとのろふことさへある。
けれど、わたしはそなたをたのんで、
まつりの前夜ぜんや子供こどものやうに
明日あすよ、明日あすよ」とうたふ。
わたしのまへには
まだまだあたらしい無限むげん明日あすがある。
よしや、そなたがなみだを、くいを、あいを、
を、歡樂くわんらくを、なにつてやうとも、
そなたこそ今日けふのわたしをちからである。

Where Yosano Akiko’s words become music.


わがけいする畫家ぐわかよ、
ねがはくは、がために、
まいさうゑがきたまへ。
バックには深夜しんやそら
無智むち疑惑ぎわくとのいろなるくろに、
ふか悲痛ひつう脂色やにいろぜたまへ。
かみみだせるはだかをんな
そはあをざめし肉塊にくくわいとのみやえん。
じつとゆるぎもせずすわりて、
きぬなみだけつつかたむく。
まへなるえぬ無底むていふちのぞ姿勢かたち
つかれてあり、
まへに、あまりに現實げんじつたるため。
くちかたしばりぬ、
いまひとたびもはずうたはざるれのごとく。
わがけいする畫家ぐわかよ、
このざうをんなに、
明日あすのありとらば、
トワルのいづれかに黄金きんひかる一ふくろふたまへ。
されど、そはきみまかせん、わがらぬことなり。
さて畫家ぐわかよ、彩料さいれうには
わがこのむパステルをもちひたまへ、
剝落はくらく褪色たいしよくとは
おそらくこのざうをんな運命うんめいなるべければ。
晶子あきこ、ヅアラツストラを一日いちにち一夜いちやをはり、
そのあかつき、ほつれしかみ掻上かきあげてつぶやきぬ、
ことばぎたるかな」と。
しかも、晶子あきこ動悸どうきうすものとほしてふるへ、
その全身ぜんしんあせさんごとくなりき。
さて十日とをかたり。
晶子あきこあをざめて胃弱ゐじやくひとごとく、
この十日とをか良人をつとおほかたらず、我子わがこいだかず。
晶子あきこまぼろしるは、ヅアラツストラの
くろ巨像きよざうげたるみぎなり。
あかねくさしぼれば
臙脂べにはいつでもれるとばかり
わたしは今日けふまでおもつてゐた。
礦物くわうぶつからも、むしからも
立派りつぱ臙脂べにれるのに。
そんなことはどうでもよい、
わたしは大事だいじ大事だいじわすれてた、
ゆめからも、
わたしのよくゆめからも、
こんなに眞赤まつか臙脂べにれるのを。
アウギユスト、アウギユスト、
わたしの五歳いつつになるアウギユスト、
おまへこそは「眞實しんじつ」の典型てんけい
おまへが兩手りやうてひろげて
自然しぜんにする身振みぶりひとつでも、
わたしは、どうして、
わたしの言葉ことばやくすことが出來できよう。
わたしは
ほれぼれとそれれをながめるだけですよ、
よろこんで見張みはるだけですよ。
アウギユスト、アウギユスト、
はゝ粗末そまつ藝術げいじゆつなんかが
ああ、なんにならう。
わたしはおまへにつてることが出來できた。
眞實しんじつ彫刻てうこくを、
眞實しんじつうたを、
眞實しんじつ音樂おんがくを、
そして眞實しんじつあいを。
おまへは一瞬いつしゆんごとに
神變しんぺん不思議ふしぎしめし、
玲瓏れいろう圓轉ゑんてんとしてをどまはる。
硝子ガラスそとのあけぼのは
靑白あをしろまゆのここち……
いまひとすぢほのかに
おとせぬ枝珊瑚えださんごひかりきて、
わが產室うぶやかべふものあり。
れば、うれし、
初冬はつふゆのかよわなる
てふづるなり。
ここにるは、
たびよりのがれてかへれるをんな――
あをざめしをんなわれと、
うまれて五日目いつかめなる
藪椿やぶつばきかたつぼみなすむすめエレンヌと
一瓶いちびん薔薇ばらと、
さて初戀はつこひごと含羞はにかめる
うす桃色もゝいろてふと……
しづかに淸淸すがすがしきあけぼのかな。
たふとくなつかしきよ、われはいま
たゝかひにきずつきたるものごと
つかれてひくよこたはりぬ。
されど、わがあたらしき感激かんげき
拝日はいにち敎徒けうとしんごとし、
わがさしのぶる諸手もろてけよ、
よ、あけぼの女王ぢよわうよ。
よ、きみにもよるふゆなやみあり、
萬年まんねんむかしより幾億いくおくたび、
へて若返わかがへ
あまほのほちから雄雄ををしきかな。
われはなほきみしたがはん、
わがきてかへれるはわづかたびのみ
わづかたび絕叫ぜつけうと、と、
やみとをえしのみ。
ああ颱風たいふう
初秋はつあきえて
みやこおそ颱風たいふう
なんぢこそたくましき大馬おほうまむれなれ。
黄銅くわうどうせな
てつあし黄金きんひづめ
とほ太陽たいやうけ、
たてがみぎんらしぬ。
鼻息はないき
水晶すゐしやうあめき、
あらなゝめに、
驅歩くほす、驅歩くほす。
ああおさへがたき
てん大馬おほうまむれよ、
いかれるや、
たはれてあそぶや。
大樹だいじゆのがれんとして、
地中ちちうあしげ、
ほねくじき、る。
そらにはとりし。
ひとおそれてせど、
ひづめおと
屋根やねくづれ、
いへふねよりもれぬ。
ああ颱風たいふう
ひとなんじによりて、
いまこそむれ、
気不精きぶしやう沮喪そさうとより。
こころよきかな、全身ぜんしん
巨大きよだいなる象牙ざうげ
喇叭らつぱのここちして、
颱風たいふうともいなゝく。

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